※この記事は2020年3月に書いた「子どもたちと踏み込み温床を作ってみたけど、踏み込み温床ってなんだろう?」を加筆、修正の上、2024年1月にリライトしたものです。
みなさん、こんにちは。岐阜県郡上市でオーガニックな農家民宿『くらしの宿Cocoro』を営むただっちです。
今月(注・2020年3月)から始めた「子ども向け 農とくらしのワークショップ」。コロナのせいで学校が休みになっちゃったので、子どもたちも親御さんも大変だろう、ということで急きょ企画したんですが、週に何日か、ボチボチと参加者さんが来てくれています!
子どもたちが中心となって農に関わることは、今までのうちのワークショップではなかったんですけど、どの子も楽しんで作業をしてくれているみたいです。ま、中にはアッサリ集中力が切れてしまって、遊び出す子もいますけど、子どもなんてそれでいいんです。むしろこちらが伝えることを黙々とこなされる方が怖いわ…。
ま、幸か不幸か、マイペースな子どもちゃんが多くて、毎回とても楽しませてもらっています♡
そのワークショップで子どもたちと「踏み込み温床」を仕込んだので、3回に分けてそのレポートをしたいと思います。
今回はその導入編「踏み込み温床とはなんぞや?」についてご説明いたしましょう。
踏み込み温床とは
農に携わっていない人はたぶんご存じない「踏み込み温床」ですが、その前にそもそも「温床」とは何でしょうか。
タネが発芽するのには「酸素、水、温度」が必要です。発芽の三大要素、なんて言われます。小学生の時に習ったはずですが、みなさん覚えてますか? ワタクシは農を始めるまで、そんなものが存在することすら忘れてました…。
野菜の中でも特に夏野菜には、高い温度(地温)が必要です。温床とはその地温を確保するための仕組みです。読んで字のごとく「温かい床」で、タネをまいた土(培土といいます)を暖めるのですね。
通常、農家は電気を使った温床を使います。こんなのね。
これと同じものを電気を使わず、微生物の力を借りて発熱させるものが「踏み込み温床」です。専門的に言うと、こうなります。
踏み込み温床とはワラや落ち葉を微生物が分解するときに発生する熱を利用して野菜苗(特に高温が必要な果菜類)を育苗する技術です。
現在電熱温床が一般的になっているが、簡単に設置でき、温度操作がしやすい反面、電気が必要で内部が乾燥しやすいという問題があります。踏み込み温床は外部エネルギーを必要とせず、適度な湿度が保たれる上に微生物供給と炭酸ガスの交換も行われる苗にとっても優しい育苗でかつ、温床後は再度発酵することで良質の堆肥もできる一石二鳥の技術です。
温床の原理は微生物発酵によるものだが、この菌は落ち葉表面にいる菌を利用するので特に菌の添加は必要ありません。堆肥づくりは急激な温度上昇(60−70℃)が必要で水分60%程度が適正だが、長期的に中温(20-25℃)が必要な温床では、踏み込むことで空気を遮断し、やや嫌気状態でとろ火で燃やす技術です。
ちなみに岐阜県で共に農を営む仲間でもあるブログ主「五段農園」さんの踏み込み温床はこんな感じ。
五段農園さんは堆肥の販売なども行うプロ中のプロ(でも変人中の変人)なので、ワタクシたちのような小さな農家からすると想像を絶する巨大なサイズの温床を作られています。が、基本は全く一緒です。
踏み込み温床の一般的な作り方
踏み込み温床の一般的な作り方は、簡単と言えばまぁ簡単です。
最初に枠を作っておいて、そこに落ち葉、青草、ワラ、ヌカ、鶏糞、水などをまいてはガンガン踏み、まいてはガンガン踏み、ミルフィーユのように層を作っていきます。するとそこで微生物が増えたり、微生物が有機物を分解する過程を経て、温床の温度が上昇してきます。
この仕込む時に何度も何度もガンガンと踏み込むので「踏み込み温床」と呼ばれるのですね。
踏み込み温床の問題点(欠点?)
このやり方が伝統的な方法なんですが 、意外と(というか、かなりの高確率で!)失敗します…。以前にワタクシに踏み込み温床を教えてくれた先生は、こともあろうか授業の時に「去年は失敗したけど、今年はどうだろうなぁ」なーんて本音がダダ漏れでしたからね。
ネットで検索しても「踏み込み温床、温度が上がらない」なーんて記事がたくさん出てきます。
ふっ、正直言って仕込む前から不安しかないぜ…。
そしてネガティブな思考が、まさにネガティブな現実を引き寄せるのですなぁ。イヤな予感は見事に的中し、その年に仕込んだ人生初の踏み込み温床は見事失敗に終わったのでした。
ちなみに踏み込み温床の失敗というのはこの2つのどちらかです。
- 初めから温床の温度が上がらない
- いったん温度は上がるけど、その温度が持続しない
1は完全な失敗で、2は水分不足による発酵乾燥が原因です。どちらにしても温度が上がらなければ、もう一度最初から仕込み直すしか、方法はありません。
で、ワタクシの失敗は1でした。
ま、非の打ち所がない完ぺきな失敗とでも言いましょうかね…。さすがに翌年はくじけて、踏み込み温床作りにトライする気力が湧きませんでした。
そこで改良式踏み込み温床だ!
そんな苦難にあえぐ農民の声を聞いて(かどうかは知りませんが…)開発されたのが、「改良式踏み込み温床」です。開発したのは三重県にある堆肥・育土研究所の代表、橋本力男さんです。
ってサラッと書きましたけどね、踏み込み温床ってたぶん何百年も歴史がある技術なんですよ。それを1人で根底から引っくり返した男、それが橋本さんです。
ワタクシたちは2014年に橋本さんに堆肥を学びに行きました。橋本さんは農林水産省が認定する「農業技術の匠」でもあります。堆肥に関する著書も出されていますが、絶版になっていて途方もない金額が付いていますので、リンクは貼りません。
橋本さんの「改良式踏み込み温床」のスゴいところは、決して失敗しないこと!
踏み込み温床で失敗したことがある人からは「そんな訳あるかーい」と嵐のようなツッコミが入りそうですが、私たちは実際にもう10年近く作ってますけど、一度も失敗したことがありません。いかに橋本さんの技術が優れているかを、毎年実感させてもらっています。
従来の踏み込み温床と「改良式」の違いを説明します。
従来のものは先ほど書いたように、各種材料をまいて水を足しては踏み込み、まいて水を足しては踏み込み、を繰り返してその後発酵するのを待ちます。つまり仕込み(=踏み込み)と発酵が一連の作業なんですね。失敗した場合、せっかく踏み込んだものを全部取り出して、もう一度初めから同じ作業を繰り返さなくてはなりません。これがホントにまあ、めちゃくちゃ大変です。
「改良式」ではあらかじめ全ての材料をまぜて山を作り、いったんその場で発酵させます。そして発酵したことをちゃんと目で確認した後(下の写真のようにね)、踏み込んでいくんです。山の状態で発酵が始まらなければ、水を足すなりヌカを足すなりして発酵を促し、温度が上がったことを確認したら踏み込む。仕込み、発酵、踏み込み、がそれぞれ独立した工程になっています。
踏み込み温床で一番労力が必要な工程は「踏み込み」なので、それが確実に一度で終わる「改良式」は従来のものとは比較にならないくらい楽チンなのです。
今回はまず仕込みを子どもたちと一緒に行いました。さーて、うまく仕込めたのでしょうか。決して失敗しないとか言ってるわりにはちょっと弱気なワタクシですが、乞うご期待です!
《仕込み編》に続きまーす。
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