※この記事は2020年1月に公開した「私たちがお味噌を仕込みつづける理由(後編)」を一部加筆修正のうえ、2023年12月に再公開したものです。
2回に分けてお届けしている「私たちがお味噌を仕込みつづける理由」ですが、前編はコチラです。
実は後半もちょっと耳の痛い事実からスタートです。まるで「耳の痛いシリーズ」と化していますが、大豆を取り巻く現状なんてそんなもんです。前編でも少しお伝えした大豆を栽培するデメリットについてお伝えします。
「耳の痛いシリーズ」なんて自虐的に言っていますが、コレを読んで未来を悲観してもらうつもりは全くありません。つまりそれだけ大豆を取り巻く状況が、危機的であるということを知って欲しい、そしてそれに対して自分たちで小さな行動を起こしていこうよ、こんなアクションができるよ、という具体的な呼びかけだと思ってください!
大豆栽培の大きなデメリット
さて、大豆の栽培には大きなデメリットがある、と前編で書きました。それがあるから、ワタクシたちは海外からの(キケンかもしれない?)遺伝子組み換え大豆を口にせざるを得ないのですね。
そのデメリットとは一体なんでしょうか?
それは
「大豆は収穫量が少ないのに単価が安い」
ということです。もう一つ付け加えるなら、日本は高温多湿で雨が多く、大豆が育ちにくい環境であるという側面もあります。
通常の農作物は、量が取れない場合は単価が高くなる。反対に量が取れるものは単価が低くなる。そして結果的に単位面積当たりの売り上げが、ある程度ですが釣り合うように調整されています。
でも大豆には、極端にそれが当てはまらないのです。
分かりやすく同じ面積(1,000平方メートル=1反)で、お米と比べてみましょう。
※以下の数値は農水省が発表している全国の平均値を、一部計算し直して使用しています
・収穫量(反収)
米 533kg
大豆 167kg
→収穫量は1/3以下
※ちなみにアメリカで大豆を栽培すると、同じ面積で260〜350kgくらい収穫できるようです。
・単価
米 262円/kg
大豆 163円/kg
→単価は6割くらい
ってこの時点ですでにおかしいのです。収穫量が3分の1以下なら、単価は3倍以上にならないと釣り合いません…。
・売り上げ額(反収×単価)
米 139,646円
大豆 27,221円
→売り上げ金額はなんと2割以下(T_T)
お米を育てていれば全国平均で14万円くらいになるところ、大豆だと3万円にもならない、というこの恐ろしい現実…。
ちなみにお米の売り上げである1反あたり「14万円」という金額も、野菜に比べるとグッと少ないのです。自然栽培や有機栽培の野菜だと1反あたりで30〜50万円くらい、ハウス栽培や慣行栽培(農薬と化成肥料を使う農法)だと1反で100万円オーバーも可能です!
ただし、お米は野菜と違って、低コストで大面積の栽培が可能です。単価が低い分を、膨大な収量で補うことができる。だから経営が成り立っている訳です。
でも大豆には、その方程式が当てはまりません。これが大豆栽培の最大のデメリットであり、農家が大豆をやりたがらない原因です。
しかもですよ!
大豆はハーベスタや選別機といった大豆専用の機械がないと、収穫後にむちゃくちゃ手間がかかるのです(ワタクシは手作業ですが)。そういった機械は大豆にしか使えないので、使う頻度は年に1回くらいのくせに、値段がべらぼうに高いのが特徴です。
ここに至って、農家のヤル気はさらにダダ下がりです。
ま、農家の心の声をズバリ30字以内でまとめますと
「大豆なんてやっても、手間と金ばっかりかかって儲からん」
これに尽きますね…。
そんなデメリットを解消するには
農家からすると、手間とコストがかかってしかも儲けが少ない大豆をできることなら育てたくない。でも食に関心がある人たちは、安心・安全な国産大豆を手に入れたい。
じゃあ一体どうしたらいいのか? という相反する問題が、1980年代くらいからずーっとあります。
そこでなんとかして農家のヤル気を引き出そうと、政府は大豆を栽培する農家に補助金を出してきました。たしか個人農家だと1反当たり3万5千円くらい、営農組合だと7万円くらいだったかな? ひょっとしたら今は制度が変わっているかもしれませんが、その補助金を足しても6万5千円から9万7千円。まだお米とはずいぶんと開きがありますね…。
一方で民間では消費者組合や大豆トラストといった運動が起こりました。大豆を農家から直接高価格で買い取ったり、また収穫後の手間のかかる作業を手伝ったりして、コストと手間の両面から農家を支えてきたのです。大豆トラストについて詳しくははコチラをご覧下さい。
全国を見渡してみると、今も草の根運動で各地でいろんな取り組みがされています。それぞれの取り組みは素晴らしい内容ですし、結果を出しているのでしょう。先人たちの継続的な取り組みには、頭が下がる思いです。
それでも自給率は右肩下がりに下がり続け、今やたったの6%なんです…。これを危機と言わずして何と言いましょうか。
そして農業界の高齢化と農業人口の減少がさらに進むこの先、この数字が今より下がることはあれ、上がる見込みはありません。そしてそれを改善する政策も、全く聞こえてこないのです。
『くらしの宿Cocoro』の取り組み
ではそんな現状を踏まえ、ワタクシたちがどうやって今までその問題に取り組んできたのかをお伝えします。とかエラソーに言いながら、実は特別なことは何もやっていません。な〜んて言い切ってしまうと身も蓋もないんですが…。
ワタクシたちの取り組みは、以下の3つの要素から構成されています。
- 知恵
- 技術
- 物
1はお味噌作り教室や講師活動で、塩分の濃度や、麹の使い方、細かい注意点などを具体的に伝え、簡単で失敗せずにできるお味噌の仕込み方を伝えています。
これが暮らしの知恵です。
2は大豆とお米の栽培方法を、ワークショップ形式や文章で学ぶ教室の開催です。農の技術を学ぶことは大豆に限らずとても大事です。これは今年(2023年)に郡上市の市民講座で行った「畑から食卓へ! 大豆講座」の写真です。
ちなみに文章だとこんな感じ。noteに公開した有料記事ですが、公開以来たくさんの方にご購読いただいています。ありがとうございます! 実際に「うまく育てられました」という報告もいただいて、嬉しい限りです!
https://note.com/kurashi556/n/nd44392b222ec
そして3です。お味噌仕込みセット(大豆と米麹と天日塩)を作って、販売をしています。
1セットで約4キロのお味噌を仕込むことができます。今年(2023年)も数量限定で販売予定ですので、気になったかたはFacebookやInstagramをこまめにチェックしてくださいね。
この3つ、それぞれは決して目新しくもないし、どれ1つとっても特別な方法ではありません。ひょっとするとお味噌仕込みセットを個人で販売している農家は珍しいかも? という程度です。
でもこの3つをうまく組み合わせることで「小さな農家」が育ちます。
「小さな農家」が増えれば大豆の自給率を回復することができるハズだ!
そんな大それたことができなくても、お味噌を自給できる人は増えるハズだ!
とワタクシたちはいつも夢見ています。
今は畑がないかたは、まず自分たちが使わせてもらえる畑を探してみてはどうでしょう。小さくてもいいので、畑が見つかれば、いつでも農と関わることができますよ!
ワタクシたちがお味噌を仕込む理由
ま、今までに書いてきた小難しいことはさておき、最後になりましたが、ワタクシたちがお味噌を仕込む理由について書いておきます。
それは暮らしに必要なことだから。
ワタクシたちの行動原理は、ほぼこのひと言に集約されます。暮らしに必要なことは自分たちでする。必要のないことはやらない、もしくは距離を置く。
自分たちの暮らしに必要なものを、イチから自分たちの手で育てる。それが永続可能な暮らしのあり方です。たくさんの人が、そんな生き方を自分たちの暮らしとして選んでいけるような社会になれば、この先の世界は大きく変わっていくんじゃないでしょうか。
とか言いながら、まだまだワタクシたちにも全然できてないことは多くて、時々うぅ〜って自己嫌悪になったりもしますが…。
ま、よくお世話になる偉人の言葉を借りるなら「人間だもの」です。間違ったり、迷ったり、クヨクヨしたりしながらも、顔を上げて前を向いて進みましょー!
てな農トークをしたいあなた。ぜひ『くらしの宿Cocoro』へ泊まりに来てくださーい。お待ちしてます。
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