みなさん、こんにちは。岐阜県郡上市でオーガニックな農家民宿『くらしの宿Cocoro』を営むただっちです。早いものでもう5月、そしてゴールデンウィーク真っただ中ですね。ワタクシは毎日が絵に描いたようなてんてこ舞い状態で、あまりの時間の速さに自分でも笑ってしまいます。
何がそんなに忙しいかって、そりゃアナタ、農作業ですよ。郡上は春がやってくるのが遅いんです。そして春が来た、と思ったらすぐ次の瞬間にはもう初夏ですよ。
なので春が来たら一気にギヤを上げて農モードに突入しなくちゃなんですね。うっかりしてると今年は夏野菜を育ててるヒマがなかったね…、食べる物どこかに落ちてないなぁ…、みたいな恐ろしい事態になりかねません。
でも春が遅いということは、裏を返せば冬が長いということです。一般的には山の冬はすることが何にもなくて閉じこもってる、みたいな印象があるかもしれませんが、実は冬ってありがたいんですよ。
そんな長〜い冬に毎年時間のかかることをコツコツと進めることにしているからです。そして今年取り組んだプロジェクトの一つが
「山から水を引く」
ことでした。
山から水を引く
あんまり普通のご家庭ではされない作業だと思いますが(そりゃそうだ)、ここ郡上では山から水を引いているかたがけっこういらっしゃいます。郡上以外の地域でも山の近くで昔から暮らしてこられたかたは、山水を積極的に利用してきたと思います。というか、山水しかなかっただろうしね。
『くらしの宿Cocoro』として使わせてもらっているこの家も、その昔は山水を引いていたらしいです。でも長い間全くメンテナンスができてなかったので、どこかでパイプが詰まってしまっていました。パイプは通っているけど水は来ない、というとっても残念な状況です。
山の中に埋設してあるパイプはあまりに長く、全部を掘り起こすことはできそうになかったので、今回新たにパイプラインを設けて山から水を引いてくることにしました。
実はこの「山から水を引く」というプロジェクトは、郡上へ引っ越した当初からずっと温めていたものです。ってもう4年も前から温めるだけ温めて、何もできてなかったんですけど…。
今年ようやく重い腰を上げて(というかようやく諸々の準備が整って)、雪が溶けたある日、まずは水源の散策に出かけました。
『くらしの宿Cocoro』から沢に沿って山を500〜600メートルほど登ったところです。
山中はとても静かで、鳥の鳴き声くらいしか聞こえてきません。でもシカの糞があちこちに落ちているので、野生動物は多そうです。
しかしたかが沢とあなどることなかれ、です。ご覧の通りかなりの量の水が流れています。しかも周囲に人工物は一切ないので、それはそれはキレイです。沢ガニなんかもいたりして、まぁかわいい。
でもさすがにここを水源にするには遠すぎました。パイプもそんなに長くないし。どうしようかなぁと考えていたら、少しくだったところにこの集落のみなさんが共同で管理している水源があるのを発見! 集落のかたに相談したところ、快くそこを使わせてもらえることになりました! ありがとうございます!
まずは水源へパイプを運びます。
へへへ。山道だから許されるこのワイルドな積み方…。パイプって重いし、弾力があってうまくまとめられないし、水を引くのってこんなスタート地点から大変なんだなーと実感しました。
そんな素人ならではの苦戦もしつつ、水源から水をどんどん引いてきて、パイプの全長は200メートル弱かなぁ。ようやく『くらしの宿Cocoro』のすぐ裏まで水が来た時は、声を上げて感動しちゃいました。
まー、それにしてもすごい水量です。
10リットルのバケツが1秒とかからず満タンになるので、毎分500リットルとかそんな勢いです。こんな水がワタクシたちの知らないところで止まることなく流れ続けているなんて。うぅ、自然って偉大すぎる。
でもこの水量のままでは多すぎて使いづらいので、古いステンレスの浴槽を沈殿槽にして、蛇口やタイル流し台なんぞを設置して、近代化(?)してみました。
名付けて
「山の水道」
いや〜、嬉しいな。
大変だった点
今回、パイプはこの家に眠っていたものや、山から掘り起こしたもの、あとはご近所さんから譲っていただいたものなどを使用しました。
当然長さがまちまちなので、「継ぎ手」と呼ばれるジョイントを使って伸ばしていく必要があります。
ふっ、そんなことは百も承知だぜ! だったんですが…。
そのパイプが古すぎて、現在もう使われていない規格のものだとは夢にも思いませんでしたよ。
この古い規格のパイプに合う継ぎ手を探すのに、とても苦労しました。山水を引くための実作業よりも、継ぎ手を探していた時間の方が長かったくらいです。
まずホームセンターは軒並み全滅。店員さんに聞いてもダメ。次に水道関係の業者さんにあたってみても、若い人はダメ。年輩のベテラン作業員さんに聞いて、ようやく倉庫の奥から継ぎ手を見つけてもらえました。
ということでみなさん、山水を引くときは今の規格の新しいパイプを使いましょうね!
余談ですが、そのベテラン作業員さんはこのパイプのことを「山水」とひと言で呼んでました。「山水パイプ」でも「ポリエチレンパイプ」でもなく、ただの「山水」。
こんな言葉一つにも、山の人たちは山水を利用して暮らしてきたんだなぁと、郡上の歴史を垣間見たワタクシでした。
山の水道の利用方法
さて、この山水を『くらしの宿Cocoro』でどんな風に利用しているかをお伝えします。
山水なのでそのままでは飲用には適しません。
農作業が終わったあとに手や顔を洗うことができます。汚れた軍手やタオルなんかも洗えます。ワタクシは歯磨きの時にも使っています。塩素が入っていないからなのか、水道水よりも口当たりがまろやかでいい感じです。
油を使っていない食器や水筒などを洗うこともできます。
生で食べない野菜であれば、泥や汚れを落とすのに使えます。
つい先日、お米の種モミの選別や温湯消毒などを行ったのですが(どちらも大量に水を使う)、この時も山水が大活躍してくれました。竹の子や山菜を愛農かまどで煮る時も活躍してくれそうです。
お客さまもワタクシたち同様にご利用いただけますが、排水がそのまま用水路に落ちていますので、石けんや歯みがき粉、洗剤などは一切使えません。沸かしてしまえば飲むことができますが、宿としての提供はいたしませんので、ご自身の判断でご利用ください。
山水を引いて気づいたこと
先ほどの写真でもお分かりの通り、山の水道は蛇口から水が出っぱなしです。
山から来る水が流れ続けているので当然のことなんですが、「水を使ったら蛇口を閉める」という習慣を子どもの頃から続けてきたワタクシとしては、最初はかなり違和感がありました。違和感というか、やってはいけないことをしているような罪悪感のほうが近いかもしれません。今でも考え事をしていると、無意識のうちに蛇口をキッチリ閉めています。
ご宿泊のお客さまも、けっこうな確率で蛇口を閉めてくれます。大人のかたは理屈で分かるのでしょうが、子どもちゃんはほぼ100%閉めてくれます。ま、習慣だし教育ですからね。そう簡単には修正できませんよ。
でも水って、本来は流れ続けている存在ですよね。
それを閉じ込めて流れを滞らせている状態って不自然なんだなぁと、今さらながらに気づきました。
流れ続けていればよどむことも腐ることもないのに、それを閉じ込めて管理を始めた瞬間から別のものになってしまうんですね。
もっと言うと、そこに命があるかないか、ということなのかもしれません。山の近くで暮らしていると、いろんなところにそんな不自然な状態を見いだすことがあります。獣のこととかね。
とか小難しいことは抜きにしても、水がある暮らしは本当に嬉しいし、何より安心です。食の自給から、それを支える周辺のことにまで、自給できる範囲がグッと広がってきて、暮らしが力強くなってきたなぁと実感しています。
『くらしの宿Cocoro』にお越しのみなさま、ぜひぜひ「山の水道」をご利用くださーい。
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