生活から暮らしへ。愛農かまどが暮らしの中に炎を灯す

みなさん、こんにちは。岐阜県郡上市でオーガニックな農家民宿『くらしの宿Cocoro』を営むただっちです。

『くらしの宿Cocoro』の宿泊プランの一つ、農泊まんきつプランはいろんな農と暮らしの体験ができる人気のプランです。体験を通じて「暮らし」の隠された魅力を味わっていただくために、いろんな工夫を凝らしています。

例えば掃除機を使わずに、ほうきとちりとりで掃除をしたり、○○の素を使わずに出汁を取るところからお料理をしたり、保存食を作ったり、いろんなものをDIYしたり、野菜をタネから育ててそれを収穫したり。

今まで何気なくこなしてきた日々の作業に、少しの手間や時間をプラスすることで、こういう作業って意外と面白いんだね、という新しい発見につながっていきます。

生活ってなんだろう


ワタクシよく思うんですけど、便利すぎる人生ってどこか予定調和で退屈じゃないですか? ん? またもや極論過ぎる?   

この時代、やろうと思えばどれだけでも便利にできます。

掃除も、洗濯も、皿洗いも、お料理も。それが一般の人が目指す理想の生活なのかもしれませんが、それが本当に価値があるかどうか、それを追い求めることが果たして幸せなのかどうか、それがワタクシには分からないんです。そしてせっかく『くらしの宿Cocoro』にお越しいただいて同じことを体験してもらっても、それではちょっと面白くないですよね。

なのでいろんなことに敢えて手間と時間をかける。そんな「農と暮らしの体験」をご用意しているんです。

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今晩のご飯のおかずを探しているところ。野菜が少ない時期は野草や山菜が大活躍です!

2000年頃に「スローライフ」って言葉が流行りましたよね。あくせくした生活をやめて、ゆっくりと生活をすれば人生が豊かになるんだよ〜、ってなライフスタイルの提案だったと記憶しています。当時たくさんの人がそんな生活にあこがれて、農を始めたり、田舎に引っ越したり、今までの人生を見つめ直したりしてました。

それだけ現実の生活が早すぎて、ついていくだけでしんどいという人が多かったのでしょう。

ワタクシたちの友人でもスローライフのために都会から田舎へ移住した人がいました。慣れない田舎暮らしを満喫しているように見えた彼ですが、その彼が放った名言が

「スローライフって、時間かかるんだね」

…う、うん、そうだよね。

スローライフを目指してわざわざ移住までしたのに、日々の生活をするだけでやたらと手間ひまがかかるなぁ。ゆっくりしてる時間なんて全然ないぜ、というボヤキです。

めっちゃ分かる!(笑) そしてそれが真実なんですね〜。

ちょっと昔、例えば1950年くらいまでは、お父さんは朝から晩まで働いて、お母さんはこれまた朝から晩まで家事をして、子どもたちはいろんな家事や農作業を手伝って学校にも行って、それでようやく生活が成り立っていたんですよ、きっと。実際に見たわけじゃないから分からないけど。

そこへいろんな便利な道具が発明されて、洗濯機とか掃除機とか炊飯器とか車とかね。それが生活の中に入ってきて、それを使うことで生活がどんどん楽になっていきました。

でもその反面、そういった便利な道具を買うためにはお金が必要で、お金を得るために田舎から都会へ働きに出る。農業から工業にシフトする。そして若い人が都会へ出やすくするために鉄道を引いたり、道路を作る。田んぼや畑を潰してマンションを建てる。

その結果、田舎からはドンドン人が流出し、農家が減り、田舎の自然が破壊されました。生活のレベルは上がったかもしれませんが、でも日々の時間は飛ぶように過ぎていきます。そしてもういい加減やめときゃいいのに、一度味わった禁断の味を忘れられず、開発という名の破壊が続けられ、現在に至る…。そんな感じですかね。

スローライフはそういう流れに対する、一種の抵抗だったでしょう。でも残念ながら一時の流行で終わってしまった印象があります。それ以外にもLOHASとかサステナブルとか、キレイだけど中身が伴わない言葉がいろいろありましたね〜。あ、今はSDGsってのがそのポジションにいますね。

どれもエコロジー的な理想をエコノミーに落とし込むという手法ですが、どれも結局単なるお金儲けで終わってしまい、私たちの生活そのものを変えるには至っていない、と確信しています。

暮らしってなんだろう


『くらしの宿Cocoro』は「生活から暮らしへ」とか、「暮らしはエンタメだ」とか、SDGsに負けないくらいそれっぽいコンセプトを掲げて、お客さまに「暮らし」が持つ豊かな魅力や楽しさを味わっていただきたいと思っています。

実はワタクシたち自身、生活と暮らしの厳密な違いなんて分かってないですけど、毎日を生きることが「生活」で、その生活の中にある何かを積極的に楽しもうとする姿勢が「暮らし」かな、くらいのニュアンスで受け取ってもらえると助かります。

で、ここからがやっと本題です。いつも前置きが長くてすいません。

そんな暮らしに大切な要素の一つ、それは

ご飯を美味しくいただくこと

です。

毎日が充実してるとご飯がうまい! そしてそのうまいご飯をいただくために、毎日をちゃんと生き切る。そんな風に考えて『くらしの宿Cocoro』では、毎日かまどでご飯を炊いています。

かまどは「愛農かまど」といって、戦後に開発されて全国に普及したものです。

愛農かまどのこと


戦後、焼け野原となってしまった日本で、いかに少ない薪で煮炊きができるかを、徹底的に追求して作られたのが愛農かまどです。実際にビックリするくらい少しの薪でご飯が炊けます。オマケにオーブンまで付いています。この辺の余裕というか遊び心というか、それも「暮らし」の豊かさなんだろうなぁ〜。

これが愛農かまどです。まー、かわいい♡

ちなみに愛農かまどを語らせては、日本広しといえどもコチラの「もりのいえ」さんのブログにかなう者はいません! ぜひご一読下さい。数年前2014年頃だったと記憶していますが、ワタクシたちももりのいえさんのブログに魅了されて、愛農かまど作りたーい♡ と思ったものです。

maasan.blog19.fc2.com

でも当時住んでいたのは借家だったので、そこまで大きな改装はできず。そこで郡上に来てすぐにかまど作りに取りかかったんですよね。

2019年に三重県から講師の野呂さんに来ていただき、参加者さんを募って、2泊3日のワークショップ形式で愛農かまどを作りました。

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2泊3日かけてみんなで作った愛農かまど。いやー、楽しかった♪

この愛農かまどをどうやって作るのかって記事はコチラです。お隣の富山県に愛農かまどを作りに行った時の記事です。

『くらしの宿Cocoro』の愛農かまどに話を戻しますと、2019年4月29日から作業を始めて5月1日に完成。

完成したのは平成から令和に変わるまさにその日でした。なので『くらしの宿Cocoro』の愛農かまどは令和に入って作られた初の愛農かまど! なんですね〜。だからどうなんだよ、というお話ですが…。

完成してから6月までの1ヶ月間は煮炊きなどなにもせずに、ゆっくりとかまどを乾燥させて、その後火入れをします。火入れの前には正式にお祀りも執り行いました(ワタクシが)。

実はワタクシ、神主の資格を持ってるんです

火入れのコツは最初は弱火で短時間。徐々に火力を上げ、ゆっくりとかまどを火に慣らしていきます。

かまどが本格的に稼働しだしたのは6月の半ばです。完成してから早や1ヶ月半以上経ってます。う〜ん、これは確かにスローライフかも(笑)

かまどでご飯を炊いたドキドキの初日。うまく炊けるだろうか、という不安を吹き飛ばすようにご飯が炊き上がりました。それ以来、農泊まんきつプランでご宿泊のお客さまには毎回ご自分でご飯を炊いてもらっていますが、今まで失敗したことは一度もありません! 

これは愛農かまどが誰にでも使える便利なかまどだからですね。

でね、この流れでは言わずもがなでしょうが、この愛農かまどで炊いたご飯がむちゃくちゃ美味しいんですよ! お客さまはみなさん必ずお代わりされます。

だいたいいつも1回に5〜6合炊くのですが、それを大人4人で完食してしまったこともあります。1人で1合以上食べてますよね…。育ち盛りかっ、そんなに食べて大丈夫なの? とこちらが心配になるくらい、みなさんしっかり食べてくれます。幸いお米はたくさんあるので、どれだけ食べてもらっても大丈夫なんですが。

ちなみに『くらしの宿Cocoro』のお米はこんなお米です。もちろん無肥料・無農薬でワタクシたちが育てています。そんなお米が食べ放題って。まー、なんていい宿なんだ(自分で言うな)。

生活から暮らしへ


もともとワタクシたちは炊飯器は使わずに、土鍋でご飯を炊いていました。ハッキリ言って、その時点で電気炊飯器の3割増しくらいの美味しさです。

が、しかし! かまどで炊いたご飯はさらにその2倍くらい美味しい!(数値は当社比)。粒はシャキッとしていて、味も香りも全然違います。

ここだけの話なんですが、最初はかまどでご飯を炊くなんて面倒だな〜とか思っていたんです。一日作業をしてね、クタクタになってから火を熾してかまどでご飯を炊く、なんてことを果たして続けられるのだろうか、ちゃんとかまどと楽しく関わっていけるだろうか、とかちょっとビビってたんですね。

でも結果的には何の問題もありませんでした。問題がないどころか、毎日とってもステキな時間をかまどと過ごしています。

炎をながめる時間

ご飯が炊ける時の匂い

乾いた薪を割る小気味良い音

煙突から立ち上る煙

それぞれが本当にステキだけど、特に炎を眺めている時間は、とてもすばらしいです。ついつい時間を忘れ、炎に見入ってしまいます。人はこんな風にして、火とともに暮らしてきたんだなぁと、ボンヤリと感じます。

かまどの炎は強くなったり弱くなったり。色も赤、オレンジ、青っぽい炎、いろんな色があります。最初の火の立ち上げを失敗すると、かまど部屋が一面煙だらけになったりもします。そういう魅力って、ガスの火では飼い慣らされすぎているし、電気では全く味わうことすらできません。シンプルだけど、大切なことですね〜。

愛農かまどを作ったことで「暮らし」はどう変化したのか。結論から言いますと、とっても豊かなものになりました。

暮らしの中に炎を灯す。

かまどでご飯を炊きたいかたは農泊まんきつプランでのご予約をお待ちしています。

[この記事は2019年10月に公開した『生活からくらしへ。そしてくらしの中に炎を灯そう』を、加筆修正の上、2023年2月に再公開したものです]

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