※この記事は2019年10月に公開した記事「『小さな農家』が世界を変える」を加筆修正の上、2025年9月に再度公開したものです。
みなさん、こんにちは。岐阜県郡上市でオーガニックな農家民宿『くらしの宿Cocoro』を営むただっちです。昨日は久しぶりに晴れました。夜、外へ出てみたら、星がとてもキレイに見えました。田舎の夜は暗くていいな〜。いつの間にかオリオンが山の上の方まできていましたよ。冬が近いのですね。
実はですね『くらしの宿Cocoro』は
「たがやす・たべる・くらす」
を満喫できるオーガニックな農家民宿とうたっています。
今回はその中の「たがやす」について、そして「小さな農家」がたがやすことを通じて暮らしをどんな風に変えていったのかについて書いてみたいと思います。
「たがやす」って何?
「たがやす」とは物理的に土を耕す、という意味だけではありません。もうちょっと広く「たがやすこと」で始まる「農のある暮らし」をイメージしてみてくださいな。
ここ郡上では家庭菜園や貸し農園などで、野菜を育てている方をよく目にします。自分たちで食べ物を育てることは、健康面や経済的な面、子どもたちの学び、そして環境への影響など、いろんな面から見て、とってもオススメです!
ワタクシたちは今でこそ自給が目的の「小さな農家」ですが、以前はガチのプロ農家として育てた野菜やお米を販売することで生計を立てていました。

でも農家になる前は、ずっとスーパーで野菜を買っていました。買わなきゃ手に入らないから当たり前ですよね。でも農家になってみて、その当たり前が少しずつ揺らいで、段々と意識が変わってきました。
今では野菜を買うことは、ほとんどありません。たまにモヤシやキノコを買う程度です。いつもスーパーのレジの人が「コイツらもっと野菜食えよ」って思ってるんじゃないかとドキドキします笑
農家になって気づいたこと
そんな野菜を買わない暮らしが始まったのは農家になった数年後から。なのでもう軽く10年以上前になりますね。
その頃、自分で育てた野菜ばっかり食べているうちに、いろんな事に気づきました。
一番最初に気づいたのは野菜の「味」。
自分たちが育てた野菜に比べると、スーパーの野菜がなぜかちっともおいしく感じられないのです。最初の頃は
「コレはあれだな、心の中で自分で育てた野菜サイコーとか思ってるからだな。オレたち恥ずかしいヤツらだな」
とか夫婦で話しながら食べていました笑
そのうち野菜を買ってくれているお客さんからも「Cocoroさんのお野菜を食べるとスーパーの野菜が食べられなくなるよね」なんて声を、チラホラと聞くようになりました。これまた最初は
「いやいや、うちの野菜はそんなに特別じゃない。コレは社交辞令に違いないぞ!」
と半ば疑いながら聞いていたのですが、他のお客さんも同じようなことをおっしゃってくれるのです。
これは一体どうしたことだ?
って思い出しながら書きながら気づいたけど、自己評価低っ。もうちょっと素直にお客さんの声に耳を傾けろよ、と当時のワタクシたちにツッコミを入れたくなります。でもね、農家になりたての頃って、ホントに自信がなかったんだよね〜。
ま、そんなこっぱずかしい過去はサラッとスルーして、本題に戻ります。
この味の差は一体どこから生まれているんだろう? 鮮度? 栽培方法? 野菜の品種の違い?
残念ながらワタクシたちの技術でないことは明確なのです。だって当時はそんな腕なかったもん(キッパリ)。
今ならタネの違い、堆肥のこと、土の中の微生物のこと、管理の技術などなど。お伝えできることはいっぱいあるんですけど、当時はそんな風に言葉にできる知識も技術もなかったのです。
なので当時考えた理由としては
「知っている人が、心を込めてちゃんと育てた野菜だから」
ではなかろうか、という結論に至りました。
顔の見える関係とか、育てる人と食べる人との関係性、とでも言いましょうか。あ、ついでに言うと、ワタクシ「消費者」って言葉がキライです。「先進国」と同じくらいキライです。って、ここではどうでもいい話でしたね…。
そりゃーどこかの見知らぬ人より、近所の顔見知りの人だよね。農薬も除草剤も使ってないし、化成肥料でササッと育った野菜より、有機栽培(当時、うちではまだ有機肥料を使っていたのです)でじっくり育てたほうが、いいような気がするよね。そうやってうちを応援してくれるお客さんがたくさんいるのは、ホントありがたいよなー、なんて思いながら農業をやっていました。
さらなる気づきは続く
そんな野菜を食べ続けていたら体重が減り、健康診断のいろんな数値が変わり(看護婦さんが驚いてました)、ケガをしても化膿しなくなり、なんて目に見える変化や気づきもいろいろありました。
でも一番大きな気づきは、「自分たちは農家としてどう社会と関わっていけばいいのか」という心の気づきだったと思います。
野菜を販売しているうちに仲良くなったお客さんから「ルッコラが食べたい」「ビーツはやってない?」「雑穀をやって欲しい!」「もっとお米が食べたい」などなど、いろんなリクエストが届くようになりました。
最初の頃は畑の規模も小さくて、お客さんも少なかったので、「よし、全てのリクエストにお応えしましょう!」 とばかりに畑を増やし、栽培品目を増やし、時には専用の機械を導入し、いろいろと頑張ってみました。が、いかんせん私たちはかけ出しの弱小農家。技術もなければ体力もない。農業の勉強もしなくちゃいけないし、もちろん販売先の営業も大事。
今思えば、そんな時期に手を広げてはいけなかったのです…。
その結果、2人で朝から晩まで休みなく働いても仕事が全然回っていかない。当然、畑も家もクッチャクチャ。何となく毎日の生活まですさんできて、ちょっとしたことで口論になり、時には皿が飛び交い……。
なーんてことは全くありませんでしたが笑
「なんか忙しすぎて、いろんなことがうまく回ってないよね〜」
とは常々感じていました。
振り返ってみれば3・11が起きてワタクシたちは今までの生き方を変えようと思い、有機農家になったのです。でも気づいてみれば、自分たちの暮らしはそっちのけで仕事(農作業ですが)に追われる毎日。
これってサラリーマンやってた頃とあんまり変わんないんじゃないの? そんな疑問が常にありました。
そんな超忙しい状態が2年ほど続きましたかね。当時は、タネをF1種から固定種に変えたり、有機栽培から徐々に堆肥を使った栽培に切り替えたり、不耕起を取り入れたり、と農業のやり方で大きな転換を進めていた頃です。野菜の味も徐々に安定してきて、野菜もお米もどうにかこうにか育つようになっていました。その結果、お客さんは順調に増えていきました。
が、しかしですよ。
受注に対して生産が全然追いつかないのです…。こんなに朝から晩まで全力で働いてるのに…。
出荷できる量が足りなくて、せっかくいただいたご注文をお断りしたことも何度もありました。ワタクシたちがやっている栽培方法って、収量は少ないし、そのくせ生長に時間がかかるし、大量生産には向かない農法なんだと、その時になってようやく気づくことができたのです。
現実にうちの野菜を欲しいと言ってくださる方がたくさんいる。でもこれ以上畑を広げたら絶対に体力が保たないし、スタッフを雇ったり機械を買うお金の余裕もない。こりゃ一体どうしたらいいんだろうかねぇ。とジレンマにさいなまれる日が続きました。
「小さな農家」の誕生
しかしそんなことをずっと考えていたら、人間の発想ってスゴいもんです。突然ピカーンとひらめいちゃったんですね〜。

「ワタクシたちができないなら、食べたい人が自分で野菜を育てたらいいじゃないか!!!」
その小さなひらめきを突き詰めていった結果、「小さな農家」のビジョンが明確に浮かび上がってきたのです。
みんなが「小さな農家」になって、自分たちが食べる分のお米や、食べたい野菜を育てる。そうすれば今まで食べ物を買っていた分のお金が減らせるので、暮らしに余裕が出る。
ワタクシたちは野菜そのものを売るのではなく、栽培技術を伝える。それなら自分たちの畑を広げる必要はないし、農業があまり忙しくない冬にも取り組める。
その結果、各地で耕作放棄地が減る。自給率も(少しずつだけど)確実に上がる。農薬や除草剤の使用量もきっと減る。自分が食べる野菜にはそういう物って、普通はあんまり使いたくないでしょ。
えー、コレっていいことばっかりじゃーん!
ま、極めて単純な発想ですよね笑
お客さんが自分で野菜を育てることは、農家にとっては収入の減少に直結します。でもワタクシたちはそれでもいいよね、と思っちゃったんです。どっちにしても自分たちの力ではこれ以上の増産は望めないんだし。
ワタクシたちが持っている農の技術を伝えることで、みんなが幸せで楽しい人生を送ってくれたら、それはとてもハッピーだよな〜、と。
ま、ワークショップなどで技術を教えることが収入につながるだろうという下心、…もといビジネス的な観点があったことは、決して否定しませんけどね笑
ちなみにこの「小さな農家」は、最近国連でも支持されている、世界的な流れなんですよ。
先進国と呼ばれる国や日本は棄権したり拒否して抵抗したけど、この流れは止めちゃいけない。農は一部の大企業の利権ではなく、私たちの暮らしの基盤そのものだからです!
そこでいろんな農の技術を伝え「小さな農家」を増やすために始めた活動が、各種講座やワークショップでした。その中でも特に人気の「小さな田んぼのワークショップ」は、今年(2025年)でなんと12年目ですよ! いや〜、ホント長く続いているよなぁ。
「小さな農家」の具体的な姿
ワタクシたちがイメージする「小さな農家」とはどんなものでしょうか? それを具体的かつシンプルにまとめるとこんな感じです。
- 田んぼ5畝くらい(約500平方メートル)
- 畑2〜3畝くらい(半分は野菜、残りの半分は麦、大豆など穀物)
- 目的は販売ではなく自給
- 機械はできるだけ使わずに手作業で
- 農薬、除草剤、化成肥料は使いません
- 家族みんなで作業します
- お父さんは平日はサラリーマンで週末農家
- お母さんは平日何日かと週末農家
- 子どもは毎日畑のチェックと収穫
どうですか?
これなら自分たちの暮らしをそれほど大きく変えることなく、そして無理をすることなく、できるような気がしませんか?
小さな田んぼや畑を見つけることは都市部ではちょっと難しいかもしれませんが、田舎なら本気で探せば必ず見つかります! できるだけ家の近くがいいですね。
農業一本でやっていた頃、これらのワークショップは「技術を教える」という点の活動でしたが、『くらしの宿Cocoro』を初めてからは、農が持つ豊かな魅力を宿で「体で体験してもらう」「舌で味わってもらう」そして「実際に暮らしの中に取り込んでもらう」という風に、立体的な活動になってきたように思います。
人の暮らしの基盤である「たがやす=農のある暮らし」
それを自分たちの手にしっかりと取り戻せた時、自分たちの暮らしってどんな風に変わっていくんだろう。そんなワクワクを少しでもたくさんの人に感じてもらえると楽しいな〜、と思っています。
ぜひ『くらしの宿Cocoro』に遊びに来て下さ〜い。夜な夜な農トークしましょう。
みなさんの訪れを心よりお待ちしてまーす♪
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